13FSCW第6号
2013年6月28日

内閣総理大臣 安倍晋三様
規制改革会議議長 岡素之様
消費者担当大臣 森まさこ様
厚生労働大臣 田村憲久様

食の安全・監視市民委員会
代表 神山美智子


6月14日に閣議決定された規制改革実施計画の中の
「一般健康食品の機能性表示を可能とする仕組みの整備」について意見書


 (規制改革会議から閣議決定に至るプロセスの問題点)
国が定める保健機能食品以外のいわゆる健康食品への機能性の表示の是非については、これまで厚生労働省及び消費者庁で幾度となく議論されてきました(1)。
その過程では、科学的証拠の不十分な機能性表示の容認は、すでに氾濫している健康食品の虚偽・誇大表示・広告をさらに加速し、消費者の経済的損失及び健康被害を増加させると、消費者団体や一部の研究者から指摘されてきました。

 今回内閣総理大臣の諮問機関である規制改革会議は、こうした過去の検討過程をまったく考慮せず、事業者と所轄官庁からの意見聴取だけで規制緩和を含む答申を作成し、安倍政権は、それを元に閣議決定をし、実施計画まで作成してしまいました。
その審議の過程では、消費者の意見も聞かず、機能性表示の解禁などの規制緩和の負の面については、全く議論されることはありませんでした。

 今後、閣議決定に基づいて仕組みの整備を検討・実施する過程では、消費者団体や国立健康栄養研究所等の研究機関を含めた、すべての利害関係者から意見を聴取する場を設定すべきです。その上で公正かつ透明性のある議論を踏まえて政策決定されるべきです。
 上記のようなこれまでのプロセスの不備を指摘した上で、今回閣議決定された規制改革実施計画中の「一般健康食品の機能性表示を可能とする仕組みの整備」の問題点を指摘します。



1) 機能性表示を解禁したアメリカで起きている問題
 規制改革実施計画のもととなる答申を作成した規制改革会議では、「国際先端テスト」と称して、個別の規制の必要性・合理性について、国際比較に基づいた検証を行うと称していました。
 しかし、国の認定を受けていないことを明記すれば事業者の自己責任で商品に機能性表示を行うことができるという制度を採用しているのは、国際社会の中でアメリカだけです。
その結果、アメリカでは様々な問題が起きています。
(表示の信憑性がゼロ)

 米国食品医薬品局(FDA)では、機能性表示の実証ガイダンスを作成しています。そこではヒトでの無作為化臨床試験(RCT)が必須となっています。しかしいくらガイドラインを作っても強制力がなければ事業者は守りません。
2012年10月にアメリカ保健福祉省の監察総監室が、市販の「体重減少」と「免疫力強化」のサプリメント127商品について調査を行いました。事業者に証拠を提出させたところ、FDAのガイダンスの要件に合致した証拠資料は1件もないという結果でした(2)。そもそもヒトでの臨床試験データがない商品もあり、また臨床試験データがあっても、成分が実際に商品に含まれているものと量や形状が違うものなどが多かったためです。FDAには事業者のガイドライン遵守を監視しチェックする体制もできてないと指摘されています。
(健康被害が増加、死亡例も出ている)

アメリカ連邦議会の会計検査院(GAO)の2013年3月に出された報告書によれば、事業者に深刻な健康被害の届け出を義務づけた2008年から、被害報告数が増加しています。2008年から2011年の3年間で総件数6307件の報告があり、そのうち1836人が入院、92人が死亡。必ずしも因果関係が証明されているわけではありませんが、サプリメントが原因と疑われる事例が増えているのです。(3)
健康食品の広告を規制しているFTC(連邦取引委員会)のホームページでは、FDAと協力してダイエタリーサプリメントの利用について注意を喚起しており、健康被害や詐欺的広告に関して積極的にFTCへ通報するよう勧告しています。(4)
(集団訴訟が多発)

また、国が機能性表示の信憑性を保証しないのですから、民事訴訟が増えています。膝の変形性関節炎への効果が表示されている「グルコサミンとコンドロイチン」のサプリメントについて、すでに3件の集団訴訟が起こり、うち1件は和解、2件がペンディングという状況です。(5)
 訴訟大国アメリカの場合、集団訴訟などで消費者の損害への救済がかろうじて成立していると思われます。訴訟慣れしていない日本社会では、消費者の被害はアメリカより多くなるのは明らかです。
今回の規制改革会議の議論では、こうした規制緩和によるマイナス面が全く検討されていません。



2)国際的動向は規制強化
アメリカ以外の諸外国では、規格基準型にしろ、個別認証型にしろ、国(EUの場合は欧州委員会)が関与する仕組みを採用しています。
 世界的にみると健康食品の機能性表示に関しては、規制を強化する動きもあります。そのよい例がEUでの健康強調表示です。
 EUでは、これまで加盟国がばらばらに承認していた食品成分の機能性表示を、EU全体で一律に規制する制度に変更しました。EUでは不正確で誤解を招くような表示から消費者を守るために、機能性表示には科学的証拠に基づき許可性にすると言っています。(6)
評価の結果、加盟国や事業者からから申請された機能性表示1941件中、承認されたのは222件と90%が却下されました(7)。
欧州食品安全機関(EFSA)の評価基準はかなり厳しく、機能性表示が認められた成分は、ビタミンやミネラルや脂肪酸など栄養成分がほとんどです(生薬やハーブはこれから審査される予定)。



3)日本での今後の制度の検討にあたっての意見
(現状の保健機能食品制度の範囲内でできないのか)
 規制改革会議の健康・医療ワーキング・グループ議事録を読む限り、当初は、委員たちも全面解禁までは要求していませんでした。事業者主導の第三者認証機関を作り、そこで個別成分についての機能性を評価し許可するという仕組みを提案していました。国は認証基準をつくりその枠組みの実効性を担保するという形でした。
私たちはこの事業者主導の第三者認証制度についても中立性・公平性の点から問題があると判断していますが、すべてを事業者の自己判断にゆだねるのは、まったく論外です。
 なぜ全面解禁になったかについては、5月9日の第4回ワーキング・グループの議事概要(6ページ以降)によれば、規制緩和に抵抗してきた消費者庁が、証拠の不確かないわゆる健康食品にまで機能性表示を許可するのであれば、いっそ国が関与せず、事業者の自己責任でやらせる方が制度の方が望ましいと、自暴自棄的な発言をしたことに起因すると思われます(8)
 それまでは、確かな証拠があるのに現状の保健機能食品制度の対象範囲が狭すぎるため表示できない成分について機能性表示を認めるという議論も出ていました。4月19日の第3回ワーキング・グループ議事概要では、規制緩和に積極的な森下竜一委員ですら、「医学的に認められる成分は、おそらく20ぐらいではないか」と発言しています(9)。
機能性が医学的にきちんと認められる成分が20くらいなのであれば、わざわざ全面解禁ではなくても、「栄養機能食品の対象拡大」もしくは規格基準型特定保健用食品の対象拡大で十分対応可能ではないかと思われます。
もし政府があくまで機能性表示の全面解禁にこだわるのであれば、その信憑性がどのように保証されるのかの検討が必要です。

(そもそも健康食品の表示・広告は実質野放し状態 規制強化こそ必要)
議事録の中で、事業者団体は「規制があるから表示できない、販売できない」と訴えていますが、これは全く事実に反しています。健康食品をめぐる問題点でより緊急な課題は、いわゆる健康食品の機能性表示・広告が、規制があるにも関わらず実質野放し状態であることです。科学的に証拠不十分で、学会も人への利用を勧めないような成分を含んだサプリが、宣伝広告されており、実質野放し状態です。(10)
今回の機能性表示の解禁は、こうした野放し状態を追認することになるだけです。
 健康食品について、今最も緊急性の高い規制改革は、虚偽・誇大表示・広告に対する取り締まり強化、保健機能食品と紛らわしい広告の禁止です。



(1)「健康食品」に係る制度のあり方に関する検討会2004年(条件付きトクホなどの導入)
「健康食品」の安全性確保に関する検討会2008年(GMP、安全性の認証制度の導入)
健康食品の表示に関する検討会情報2010年(エコナ事件をきっかけに検討)
(2)2012年10月の保健福祉省の監察総監室のレポート(英文)
Dietary Supplements: Structure/Function Claims Fail To Meet Federal Requirements
https://oig.hhs.gov/oei/reports/oei-01-11-00210.asp
(3)GAOの2013年3月の報告書(英文)
DIETARY SUPPLEMENTS: FDA May Have Opportunities to Expand Its Use of Reported Health Problems to Oversee Products
http://www.gao.gov/assets/660/653113.pdf
(4)FTC(連邦取引委員会)のホームページ(英文)
http://www.consumer.ftc.gov/articles/0261-dietary-supplements
(5)グルコサミンに関するWikipedia記事(英文)
http://en.wikipedia.org/wiki/Glucosamine
(6)EFSAの健康強調表示の評価の仕組みを解説したyou tube動画(英文)
http://www.youtube.com/watch?v=3zNL21gjwuo
(7)EUで許可もしくは却下された健康強調表示の一覧(英文)
http://ec.europa.eu/nuhclaims/
(8)5月9日の第4回健康・医療ワーキング・グループ議事概要の6ページ以降の消費者庁増田食品表示課長の発言
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg/kenko/130509/summary0509.pdf
(9)4月19日の第3回健康・医療ワーキング・グループ議事概要の17ページでの森下竜一委員の発言
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg/kenko/130419/summary0419.pdf

(10)たとえば同上の第3回の議事概要の15ページで、日本通信販売協会の佐々木さんの発言。
 赤ワインなどに含まれ長寿遺伝子を活性化させるレスベラトロールという成分について、ネズミに暴飲暴食をさせると寿命が短くなるが、レスベラトロールを一緒に食べさせると長生きするという実験が発表されて、アメリカでは市場が活況を呈しているが、日本では開発もできないし・売ることもできないという発言がある。
しかし実際には日本でもDHCや山田養蜂場などがインターネットの通信販売サイトで「カロリーを抑えた食事をしなくても長寿遺伝子を活性する」と宣伝して販売している。
DHCサイト
http://www.dhc.co.jp/goods/goodsdetail.jsp?gCode=32193&sc_cid=ls_gl_health_060635&re_adpcnt=7qb_8oEv
山田養蜂場サイト
http://www.3838.com/shopping/camp/resveratrol_t/?prid=pli_ac_aaf_A01_G470&sc_cid=pli_ac_aaf_A01_G470_pc-health-resveratrol-3008530
ちなみにレスベラトロール2012「レスベラトロールと健康に関する第二回国際会議」では、研究結果が十分でないため、ヒトでの利用は勧めることはできないというプレスリリースが出されている。
http://www.resveratrol2012.eu/fileadmin/filer/David/INGRIDMisc/Resveratrol2012/Resveratrol2012_PressRelease_04_UK.pdf


<連絡先>
食の安全・監視市民委員会事務局
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田1-9-19-207
日本消費者連盟内
Tel:03(5155)4765 Fax:03(5155)4767

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