生活衛生基準行政の移管についての意見と質問

23FSCW第2号
2023年8月9日

消費者及び食の安全担当大臣 河野太郎様
消費者庁長官    新井ゆたか様
消費者委員会委員長 後藤巻則様
厚生労働省大臣   加藤勝信様

食の安全・監視市民委員会
共同代表 佐野真理子 山浦康明

生活衛生基準行政の移管についての意見と質問

政府は2023年の通常国会に「食品衛生法の一部改正」案を上程し、国会で十分な審議も経ず、また消費者に情報を十分に知らせることなく改正されました。その結果、「生活衛生基準行政」を厚労省から消費者庁と環境省などに移管します(24年4月1日施行)。食品の規格基準の策定は消費者庁に移管します。また水道の品質基準の策定は環境省に、水道整備は国交省に移管します。
食の安全については、消費者庁に新たに「食品衛生基準審議会」が、厚労省には「厚生科学審議会」が設置され、これまでの「薬事・食品衛生審議会」は「薬事審議会」に特化されます。食品衛生基準審議会においてはその委員には事業者が重視され、消費者の声が軽視される懸念があります。消費者庁のこれまでのマンパワーを考えると食品衛生基準を作ることができるのか心配です。また、検疫や保健所が担う食品安全監視行政は厚労省に残りますが、厚労省は今後感染症対応などに力点を置くようになる中、予算や人員面で弱体化しないか懸念されます。こうした重大な制度変更について消費者に知らされることなく強行されたことは問題です。
5月18日の参議院厚生労働委員会ではこの点について付帯決議が採択され、「食品安全推進に支障が生じないよう、厚労省と消費者庁は規格基準の策定と監視指導の連携に万全の措置を講ずること、消費者の選択の権利の確保のためには食の安全は当然として、食の安心にも十分に留意すること(一部省略)」(211閣45)生活衛生等機能強化法案附帯決議.pdf (sangiin.go.jp)とうたっています。
当会は、以上の観点から下記3項目について回答を求めます。なお、回答は9月8日までにいただきたく、よろしくお願いいたします。回答は当会公式サイトに公開することを予めご了承ください。

1. 移管についての消費者への説明責任をきちんと果たして下さい。
消費者に説明する機会を持つことをお考えですか。
今回の移管は消費生活に直結する業務を担う部署の問題でありながら、消費者の意向がほとんど反映されることなく急遽、決定されたものです。移管後の、食品衛生基準やそれに基づく表示施策の仕組み、及び、食品安全行政との連携のあり方について、消費者への説明はほとんどなされていません。移管が消費生活にどのような影響を与えるのか、移管によって、これまで厚労省内の同じフロアで、隣どおしで取り組まれてきたリスク管理の業務がどんな変化を被るのか、そもそも食品衛生基準行政と食品監視行政をなぜ分けるように別機関で実施する必要があるのか、それらの点が不明確なままです。だからこそ、消費者の間に不安が募っているのです。その観点から、消費者庁、厚生労働省には消費者への充分な説明が必要です。

2. 食品衛生基準審議会の消費者委員の割合を高めるべきです。
審議会の人選について消費者割合を高める意向はありますか。
消費者庁に新設される「食品衛生基準審議会」においては、消費者の意見が十分反映されるよう、消費者委員の割合を高率にしておくことが絶対に必要です。参議院国会附帯決議には消費者庁への民間事業者からの受け入れについて、事業者目線になる可能性への懸念が示唆されています。移管後業務も含め、消費者目線の政策推進について事業者寄りとの疑義が生じないよう、審議会委員の選定、職員の配置には慎重な姿勢で臨んで下さい。

3. 食品の特性を踏まえた「安全」「表示」「取引」の一元的推進を実施して下さい。
タテ割り行政を防止していくことについてどんな措置をお考えですか。
今回の移管によって最も大きな課題の一つは、安全・表示・取引の施策推進がスムーズに展開されるのか、実際はその逆に、現在以上に、いっそうの縦割り行政が進展されるのではないのか、という懸念です。
現在の日本の食品行政はリスク評価とリスク管理の行政間役割分担を前提に実施されています。米国のFDA方式とは異なり、欧州のEU方式を採用したものです。
日本の場合、最も懸念される問題が縦割り行政の定着とその弊害です。
これまでも安全、表示・取引を管轄する行政機関・部署が異なることから、食品においてもそれぞれの問題が別個に対応されてきました。今回の食品衛生基準行政の移管は厚労省が実施してきたリスク管理の一部を消費者庁と分割実施することを意味しますので、縦割り行政をさらに拡大させないか、この心配は強まっています。本来、この心配を払拭するのが、消費者庁の発足目標でしたが、現在までのところ食品分野において、消費者庁は期待される成果をあげていません。
政府は、今回の消費者庁への移管措置について、消費者庁が「食品安全行政の総合調整を担っている」ことを理由にあげていますが、そうであるなら、これまでの反省を踏まえ、食品の安全・表示・取引の一元的施策推進を保障する制度的仕組みを提示して下さい。

以上