不十分な内容の「機能性食品を巡る検討会」報告書 「健康食品」による被害事故の防止・救済を求めます
24FSCW第1号
2024年5月29日
消費者及び食品安全担当大臣 自見 英子様
消費者庁長官 新井ゆたか様
不十分な内容の「機能性食品を巡る検討会」報告書
「健康食品」による被害事故の防止・救済を求めます
食の安全・監視市民委員会
共同代表 佐野真理子 山浦康明
消費者庁の「機能性表示食品を巡る検討会」は5月27日、報告書をまとめ、健康被害情報の報告義務化や、製造・品質管理のGMP義務化などを盛り込んだ提言を提起しました。これら提言は機能性表示食品制度導入時の2015年前後から私たち「食の安全・監視市民委員会」など消費者・市民団体が要請し、事故の未然・拡大防止の最低限の前提として位置付けてきたものばかりです。あまりに遅きに失したものであるとともに、報告書自体も極めて不十分な内容となっています。
同検討会は、小林製薬の紅麹を使用した機能性表示食品による死亡を含む深刻な事故発生を受けてスタートしたものですが、法的義務以外の提言項目には事業者による自己確認を求めるなど、ほとんど実効性がなく、今後も健康被害事故が発生し続けることへの懸念が残ります。甘い報告書となった最大の要因は報告書作成の主体が消費者庁であり、制度導入以来、最悪の重大事故が発生したにもかかわらず、十分な行政の反省が見られないこと、そのため事故を教訓化しようとせず、スピード審議と事業者利益を優先するあまり、消費者目線からの被害防止措置が真剣に考えられていないこと、何よりも、制度運用9年間の課題への検討を避け、廃止を含む抜本的対策を講じる意欲も覚悟もないこと、などがあげられます。
食の安全・監視市民委員会では、今回の報告書について、以下の意見を述べるとともに、早急に制度廃止を含む抜本的改善への検討を求めます。
1. 機能性表示食品制度の廃止を求めます
検討会報告書は、検討射程の範囲を時間的都合や縦割り行政の存在を背景に、必要以上に、狭く設定しました。健康被害の報告義務化や製造行程・品質確保へのGMP義務化は、すぐにでも実施されるべき施策です。後回しにされた健康被害情報の公表制度についても早急な導入が必要です。
しかし、問題なのは、このような施策だけでは健康被害発生は防止できないということです。事業者任せの機能性表示制度を廃止し、いわゆる健康食品を含めた健康食品全般の抜本的改善に向けた検討に着手すべきです。
2. 新たに健康食品全体を網羅した法律の検討が必要です
報告書は、制度をいかに維持するか、事業者にできるだけ規制をかけずに運用するにはどんな施策が必要か、その視点からの検討を前提にしています。実際、報告書には、あまり事業者の規制を厳しくすると、規制のない、いわゆる健康食品に戻り、かえって消費者の選択を狭める結果に陥りかねない、などという本末転倒の主張が記載されています。私たちは、機能性表示食品制度を廃止した上で錠剤・カプセル・濃縮型等の健康食品全般を視野に入れた法体系の検討、いわゆるパラダイムシフトが必要と考えます。
そもそも、保健機能食品には、特定保健用食品(トクホ)や、栄養機能食品、機能性表示食品の3種類があり、それぞれが表示、品質に違いがあり、規制も異なります。さらに、いわゆる健康食品もあります。それらの複雑さを理解するために消費者には消費者教育が必要、という、おかしな状況となっています。
錠剤・カプセル・濃縮型等の形状であっても「食品」として販売され、食経験のないままの過剰摂取などの事故発生のリスクに常にさらされている食生活、それを支える国の制度の見直しこそ必要と考えます。
3. 健康食品による危害情報の「目詰まり」が分析されていません
健康食品の危害情報は全国の消費生活センターに毎年、1,000~3,000件規模で寄せられ続けています。その事故例が消費者安全法に基づく事故情報の通知システムの網にかからず、本当に消費者庁に寄せられていないのか、寄せられていても対応できないのか、その実態が報告書ではまったく触れられていません。食品事故情報の「目詰まり」の有無、その状況を明らかにしない限り、報告義務制度が導入されても、適正に情報は収集されません。健康被害情報の収集について、実効性ある対応を求めます。
4. 食品の自主リコール制度の課題が検討されていません
3.と関連して、現在、厚生労働省と消費者庁が連携して取り組んでいる食品自主リコールの報告・公表制度の実効性についても、報告書は何ら改善策を提起していません。自主リコールの中には、健康食品の名称で分類されたリコール情報もあり、その中には機能性表示食品について表示上あるいは品質上の安全性が問題となった例があることが推測されますが、消費者には明確に伝達されていません。それら自主リコール情報制度の実態を速やかに公表し、課題と改善策を提示すべきです。
5. 被害者救済についてまったく顧慮されていません
消費者問題解決のかなめは、被害の防止と被害の救済です。これらは消費者行政が常に念頭におくべき課題ですが、報告書は、被害救済について一言も触れていません。食品事故被害者の救済制度の導入については、1960年代のカネミ油症事件以来、常に消費者・市民団体、日本弁護士連合会などが求めてきました。食品による健康被害者の救済制度の導入を今こそ、検討すべきです。
6. 広告は相変わらず事業者の自主性にゆだねるのみで規制されていません
改善が必要な一例として広告規制がありますが、報告書では広告内容に関する適正化を事業者の自主性を喚起する方向で提起しています。しかし、食の安全・監視市民委員会では、すでに2年前に、食品表示法の規制対象に広告を含む旨の申し入れを行っています。パッケージだけを対象とした表示規制では、デジタル化に対応できません。にもかかわらず、今回の検討会では従来同様の姿勢で終始しました。
広告規制についても、抜本策を講じた施策展開の一環として検討していくべきです。
7. 機能性表示食品の事後検証事業の課題を検討していません
機能性表示食品制度の9年間の運用において、検討会が念頭に置くべき事案の一つは、消費者庁が実施してきた事後検証事業の情報非公開を争点とする裁判が、現在最高裁で争われていることです。検証事業は事業者からの届出情報の正確性を担保するために、消費者庁が事後的に検証事業を行うという制度設計となっています。2016年に公表された検証結果の概要から、「同じ製品であるにもかかわらず2ロット間でのばらつきが大きい」など、すでに品質管理ができていなかったことが分かっています。
今回、検討会では、この事後検証事業の目的や成果、また検証結果が全面的に開示されていないことなどには、全く触れていません。これまでの事後検証事業の結果の公表を含め、検討すべきです。
以上の点から、今回まとまった「機能性表示食品をめぐる検討会」の報告書には、消費者目線の欠落による不十分性があり、早急に再検討すべき点が多々あります。「縦割り」に陥らない、消費者目線を重視した検討に早急に取り組むことを強く求めます。
以上
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