食の安全ウォッチNo.77(2023/06/26)
●フードテックとゲノム編集……………………2
●総会記念講演会で鈴木宣弘東大教授が訴え…4
●食の安全・監視市民委員会総会報告…………5
●新役員紹介……………………………………12
●ニュースレター電子版の発行について……12
巻頭言
消費者置き去りの強引な行政
このところ政府が強引に制度改革を強行する事例がこれまで以上にめだちます。防衛費増強、LGBT法、原発の冷却水の海洋放出など、政府の言う「ていねいな説明」とは程遠く、結論ありきの強行姿勢が見受けられます。防衛費43兆円問題では、その内訳を十分に説明することなく、GDP比2%という数字が先にありきでした。LGBT法の国会審議では「マイノリティへの偏見や差別をなくす」という目的があいまいにされ、保守派に配慮する法文の修正がなされ、差別禁止の理念が後退しました。原発の海洋放出は地元福島県の漁協の反対があっても23年夏には放出するという結論が先行しています。
食の安全をめぐっては、厚労省の感染症対応能力を強化する制度変更の余波を受けて、食品などの「生活衛生基準行政」を厚労省から消費者庁などに移管することになりました(24年4月1日施行)。食品の規格基準の策定は厚労省から消費者庁に移管され、新たに設置される「食品衛生基準審議会」が審査します。その委員の人選では事業者が重視されかねません。検疫や保健所などが担う食品安全監視行政は厚労省に残りますが、予算や人員面で弱体化してしまう恐れがあります。こうした重大な制度変更について、消費者に知らされることなく強行されていることがそもそも問題なのです。(山浦康明)
消費者白書にみる食品被害の深刻化
消費者庁は6月13日、「令和5年版消費者白書」を発表しました。消費者苦情相談の分析結果や国の1年間の施策実績を盛り込んでおり、安全・表示・取引の領域のいたるところで健康食品をめぐる消費者被害の深刻さが浮きぼりとなっています。効能効果を強調した不当表示、高齢者の不安につけ込んだ詐欺的勧誘、過剰摂取による健康被害など、全国でまん延していることを示しています。
消費者白書は消費者事故の集計結果も記載しています。消費者事故は年間約1万5千3百件で、2年間で約4千件も増えました。その理由を白書は「2021年6月から食品リコールの届出が義務化されたため」としています。消費者事故には財産被害も含まれますが、それとは別に生命身体に関わる事故件数の増加が目立ち、その中で、食品リコール届出件数が全体を押し上げた形となっています。
この制度は正確に言うと「食品の自主リコールの届出・公表制度」のことで、食品衛生法と食品表示法の改正によりスタートしました。今年6月で満2年です。食品事業者が都道府県に報告したリコール情報を厚生労働省と消費者庁が連携・公表しているのですが、行政はリコール事案を発表するだけで事業者の事故防止策やリコール対応に関する追跡調査の有無などをまったく公表していません。消費者の健康被害発生の防止を図ることが制度の目的の一つですが、この目的は果たされていないと言わざるを得ません。調査・監視を強めていきましょう。(佐野真理子)