1)国内のBSE対策は2001年より、厳格な体制が取られてきた。それは全頭検査、トレーサビリティ制度の確立、SRM(特定危険部位)の除去、飼料規制でありこれが世界のBSE対策のモデルとなりその重要性は変わっていない。ところが2005年、米国の圧力によって、BSE国内対策のうち、BSE検査体制は20ヶ月齢以上を対象として、若齢牛のBSE対策は簡素化され、これが、米国からの20ヶ月齢以下の牛肉製品の輸入を認める役割を果たし、当時のブッシュ大統領の選挙戦に貢献した。しかし日本国内では自治体は消費者の安全を求める声を受けて、と畜場での全頭検査を続けている。 2)この度のBSE対策の見直しでは、検査対象となる牛の月齢を30ヶ月齢以上とし30ヶ月齢未満の牛では検査は不要とすることも含まれよう。しかし現在BSE検査の対象を限定しなければならない積極的な科学的理由は存在しない。その背景には日本のTPP参加に関し、米国産の30ヶ月齢以下の牛の検査を不要とする輸出プログラムとつじつまを合わせ、米国の多くの牛肉(現在の全体の2割から9割にまで広がる)を日本に輸出できる環境を整える、という政治的理由しかない。これにより、日本は非関税障壁を一つ除去したという実績をあらかじめ作っておきTPP交渉への参加を米国に認めてもらえるようにすること、また米国の牛肉産業を活性化して、オバマ大統領の選挙戦に貢献しようとするものというべきである。 3)世界においてBSEの発生が減少したとはいえ、米国のBSE対策はSRMの除去ルール、肉骨粉の規制、検査態勢など改善がみられたという証拠はない。またBSEの発症原因、牛の体内でのBSEプリオンの伝達経路などについては依然として未解明である。世界からBSEを完全に除去するためには、日本の全頭検査体制を各国でも採用し、データ収集を充実させる研究がこれからも不可欠である。また米国の日本への輸出プログラム違反がこれまで15回にも及んでいることから、BSE対策における米国のコンプライアンスを検証することも必要である。 4)TPP交渉における非関税障壁の協議においては、韓米FTAにおける「ラチェット条項」(逆進防止措置)により、一度規制緩和をするとBSEが米国で発生しても輸入国が輸入を中断できなくなる制度が、米国から日本にも強要されるおそれがある。また国際機関のOIE(国際獣疫事務局)の勧告条項を強制条項として承認せざるを得なくなり、日本における主権の行使としての食品安全措置が認められなくなる。 |