TPP協定案の日本語での公開要請および質問

15FSCW第17号
2015年11月26日
内閣総理大臣 安倍晋三様
TPP担当大臣 甘利明様
食の安全・監視市民委員会
代表 神山美智子
TPP協定案の日本語での公開要請および質問

 2015年10月5日、TPP協議は大筋合意したとされましたが、日本政府はその合意内容の概略を公表するのみで詳細を未だに明らかにしていません。国民に十分に情報公開すべきです。11月5日にニュージランド政府が英文で協定文を公開しましたが、その内容からは日本政府の説明が不十分で誤解を与えるものであり、私たちは以下のような疑問・懸念を抱かざるを得ません。私たちは日本政府に対し、食の安全に関して、まず協定文第7章「SPS」第8章「TBT」の全文を日本語で公表することを求めるとともに以下の疑問に明確に回答することを求めます。2015年12月11日までに文書でご回答ください。
1)第7章、8章につき全文の日本語訳とともに、交渉におけるサイドレターも英文・日本文で公開し、条文の解釈を明らかにされたい。
(私たちの懸念)協定文は抽象的な合意の表現を取り実際の詳細なルールは交渉当事者の合意によることとなる。サイドレターの公表により今後のルールを明確に示す必要がある。

2)第2章「内国民待遇及び物品の市場アクセス」第29条「モダンバイオテクノロジー産物の貿易」において、輸入時にコンタミネーションが存在した場合など、問題解決のために作業部会を設置することを含め、情報交換のための作業部会を開くと規定しているが、その組織の法的性格、輸入国の執行に対する権能などを明らかにされたい。
(私たちの懸念)作業部会の実際の構成、権能によっては、事業者の利益が優先され消費者の利益が奪われることも懸念される。

3)日本が予防原則に基づき、安全性確保のために執る措置はこの協定で保障されるか。またSPS委員会の詳細を明らかにされたい。
(私たちの懸念)第7章「衛生植物検疫(SPS)措置」では、12の締約国が実施する衛生植物検疫措置は貿易に対して不当な障害にならないようにすることを最大の狙いと位置づけており、「透明性を確保する」という理由で、TPP加盟国間でSPS委員会を設け、また各国は規制当局、コンタクトポイントを設けて、リスク分析手法により、関係者の意見を聞いてそれぞれの措置を行うこと、SPS上の措置に関する紛争解決のために、第28章の「紛争解決ルール」に基づき政府間協議が行われることなどが盛り込まれている。この中で輸入国の輸入規制に関して厳密な科学的な証拠を提出しなければ敗訴することとなれば、せっかくの輸入国の予防的措置が萎縮しかねない、と考える。またこのような新たなルールが実施されると、自国の安全基準の策定に関して海外の事業者も注文をつけることができることにつながり国の主権も侵害されかねない。

4)第7章第7条の「地域的状況、ゾーニング、コンパートメント」などの概念を認めることは、病害虫、疾病を国境対策として行う国の権限を制限し安易に貿易優先の考え方を持ち込むことになるのではないかという点について明らかにされたい。
(私たちの懸念)病害虫など農畜産物のリスクが発生した場合でも、輸出国が地域的に封じ込めれば国として輸出禁止措置をとらなくてもよいといった貿易禁止の例外を大幅に認める考え方も盛り込まれているが、これにより例えばBSE発生国からの全面的輸入禁止措置は執れなくなるのではないか。

5)物品の引き取りについて第5章「税関当局及び貿易円滑化」第10条では「48時間以内」とのルールを設けているが、これは検疫において安全性を軽視することにならないかという点について明らかにされたい。
(私たちの懸念)第5章第10条では「各締約国は、締約国間の貿易を円滑にするため、効率的な物品の引取りのための簡素化された税関手続を採用し、又は維持すること、また、自国の関税法の遵守を確保するために必要な期間内(可能な限り物品の到着後48時間以内)に引取りを許可すること等の手続を採用し、又は維持すること」と規定されているが、輸入手続きの迅速化という名目で輸入検査が拙速に行われてしまうことなど、各国の安全確保の実施方法が制限されることとなり今でもわずかな抜き取り検査しか行われていないにも拘わらずさらに安全性が軽視されかねない。

6)第8章「貿易の技術的障害(TBT)措置」において、「透明性の確保」との表現で各国の食品表示基準の策定において海外の利害関係者が関与できる仕組みが導入されるのではないか。またTBT委員会の詳細を明らかにされたい。
(私たちの懸念)第8章では各国の工業製品や食品添加物、食品表示の各国の基準やルールが貿易の障害にならないように、といった目的が重視されており、「透明性の確保」のためとして次のような規定も盛り込まれている。例えば、日本が強制規定(technical regulations)、任意規定(standards)、適合性評価手続の導入(conformity assessment procedures)などの様々なルールを策定しようとする際に、他の国(例えば米国)の利害関係者を検討に参加させなければならない。また、日本が新たな規定を実施する60日前までに相手国の利害関係者から意見を述べる機会を与えることなども盛り込まれている。今後日本が厳しい遺伝子組み換え食品の表示をしようとしても、米国の事業者から反対の意見が出て、それができなくなる恐れもあるのではないか。また、各国代表からなるTBT委員会や作業グループを設けTBTルールの設定や見直しなどを行うとされる。この委員会には業界代表なども関与できるのではないか。

総じて、私たち消費者は、農産物・食品の貿易の極端な自由化が進み、各国の農業、地域社会が崩壊することとともに、貿易拡大でグローバル企業だけが利益を得て食の安全が軽視されかねないことを懸念する。

以上