食品安全委員会「BSE国内対策の見直しに係る食品健康影響評価」に対する意見

食品安全委員会「BSE国内対策の見直しに係る食品健康影響評価」に対する意見
 厚生労働省が2015年12月に諮問した事項のうち、「BSEの検査対象月齢」について、このたび食品安全委員会は、「48ヶ月齢超とする現行基準を廃止してもリスクは変わらない」とした。これにより日本における健康牛のBSE検査を政府はすべて廃止することになると思われるが、私たちは以下の理由から、あくまでも2001年10月に実施された全頭でのBSE検査は必要であると考える。食品安全委員会は2016年7月のこの食品健康影響評価を撤回すべきである。
1)「BSE問題は飼料規制だけでは解明できない」
食品安全委員会の2013年5月の評価書では、それまでの30ヶ月齢超のBSE検査を48ヶ月齢超へ見直すことにつき、「2009年から2015年の摘発頭数がほぼ0となり、以降日本において飼料を介してBSEが発生する可能性は極めて低くなる、と推定される」としていた。今回の厚生労働省の2015年12月の諮問では、2013年7月から2015年11月末までに48ヶ月齢超の牛の検査でも日本ではBSE感染牛が発見されていないのは、その原因として飼料規制が実施されたからだとしている。
しかし、世界ではBSE感染牛が2014年に英国で1頭、英国以外の欧州で10頭、2015年は英国で2頭、英国以外の欧州で4頭、カナダで1頭が確認されており、2016年もフランスで1頭確認されている。しかも近年、非定型のBSE感染牛も確認されている。世界各国では飼料規制も行われていることから、BSEの発生原因と汚染経路、体内での異常プリオンの動態にはまだ未解明の要素があると言わざるをえない。日本においてもと畜場でのBSE検査を続けBSEの原因究明のためのデータを収集し続ける必要がある。

2)「変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)のリスクは非定型BSEで皆無とはいえない」
2016年7月の食品安全委員会の評価書では、非定型BSEのうち、異常プリオンの量が多いH型と少ないL型を比較し、日本で発見された23ヶ月齢、72ヶ月齢の2頭の非定型BSE感染牛はL型だったため、感染力は弱い、としている。
しかし、非定型のBSEは世界ではこれまでの累計で124頭発見されており、H型、L型とも年に数頭確認されている、またH型では動物実験でサルに感染したとの報告があることをこの報告書でも述べている。孤発性に発生しうる非定型のBSEの発生が日本で今後も皆無とはいえず、人に感染してvCJDが発症するリスクはゼロではないため、と畜場でのBSE検査は必要である。

3)「BSEの国境措置は万全といえず、食品安全委員会は自ら評価を実施すべきである」
今回の2016年7月の評価書では、厚生労働省の諮問(2015年12月)で求められたSRMの範囲の縮小(とくに脊柱を除外すること)については報告していない。しかし、早晩、これに対して食品安全委員会は評価することになろう。その前に、食品安全委員会は輸入牛肉が国内消費者のvCJD発症をもたらすリスクにつき、次のような項目について速やかに自ら評価すべきである。

・日本の厚生労働省、農林水産省、食品安全委員会は、米国における飼料規制の実態調査はここ数年実施していない。米国の飼料規制では牛の肉骨粉の豚・鶏への給餌を禁止しておらず交差汚染の可能性が未だにある。そのような米国牛の輸入拡大はリスクを高めるのではないか。米国貿易通商代表部(USTR)の外国貿易障壁報告書に盛り込まれた、BSE検査の縮小要求に、この食品安全委員会報告書は応えるものとなった。またTPP協議の中で行われた日米二国間の並行協議で日本政府は、米国の要求にある骨由来のゼラチン、コラーゲンの輸入解禁を認めた。政治的関連性が疑われるがどう説明できるのか。
・諸外国のBSE対策につき、食品安全委員会はこれまで、日本に輸入される牛肉及び牛内臓に関して、オーストラリア、メキシコ、チリ、コスタリカ、パナマ、ニカラグア、ブラジル、ハンガリー、ニュージーランド、バヌアツ、アルゼンチン、ホンジュラス、ノルウェー、アイルランド、ポーランド、スウェーデン、デンマーク、スイス、リヒテンシュタイン、イタリアについて、食品健康影響評価を行ってきた。今後早急にカナダ、米国について実施されたい。

以上
2016年8月8日
食の安全・監視市民委員会